驚くべきことにA子さんは、出勤前に自宅で食事を摂っているにもかかわらず、病院に着くとまたしても食事を摂るという生活を、毎日続けていたのだそうです。つまり一日に三食ではなく、四食だったり、ひどいときには五食だったりしたわけです。A子さんは最後にこうもおっしゃいました。「目の前に食べ物があるのに、それを食べられないと思うと飢餓感におそわれるんです」食べることに対する執着心がない人には、おそらくこの気持ちは理解できないでしょう。この飽食の時代に、しかも三度三度の食事をきちんと食べているにもかかわらず、飢餓感におそわれる。栄養学のプロであるはずのA子さんがどうしても痩せられなかった最大の原因は、ここにありました。そしてその格好の言い訳になったのが、ご主人の「そんなに苦しいのなら、ダイエットなんてしなくてもいい」という言葉です。でも、そもそもA子さんが私どもの教室に通おうと思ったきっかけは、肥満による体調不良と、ひざの痛みをどうにか改善したいということからだったのです。私はA子さんがひとしきり泣いたあとに、一言だけ聞いてみました。「A子さん、あなたは痩せたくないの?」しばらく沈黙が続きました。私はもう一言添えました。「痩せるのは誰のためですか?A子さん、あなたは健康になりたかったんじゃないですか?」その言葉を聞いて、A子さんの眼からは再び涙が溢れて、そのまま号泣してしまったのです。でも、声をしゃくりあげながらも、A子さんははっきりとこうおっしゃいました。「痩せたい」と。それからのA子さんは、見違えるように優秀な生徒さんに変わりました。もともと栄養学のプロである彼女にとって、食事療法は簡単なことでした。それよりも、A子さんにとって必要なのは心のケアだったのです。